アルコール依存症は、飲酒習慣のある方でしたら、誰でもかかる可能性をもつ病気です。本人や家族への早期介入が回復の鍵となり、治癒(再びコントロールしてお酒を飲めるようになる)はできませんが、治療により回復は可能です。

アルコール依存症は全国に約100万人強いると推計されています。ただ実際に治療を受けているのは約5万人弱にとどまります。本人も家族も誰にも相談できず、その場しのぎの対応が続き、生活が破綻してから発覚してしまうことも珍しくはありません。

依存症の実態や治療法、家族の関わり方を知ることで、治療への一歩が踏み出せるかもしれません。この度は、アルコール依存症の治療を専門とする呉みどりヶ丘病院(広島県呉市)の長尾早江子院長、北田武看護副部長、田中瑞樹看護師長、片下きよみ看護師に聞きました。

長尾早江子院長
長尾早江子院長
北田武看護副部長
北田武看護副部長
田中瑞樹看護師長
田中瑞樹看護師長 
片下きよみ看護師
片下きよみ看護師

interview 01

病気の概要

― アルコール依存症とはどのような病気ですか。

長尾

時間や場所、量など飲酒行動のコントロールができなくなる脳の疾患です。必ずしも暴言や暴力などを引き起こすわけではなく、静かに酒を飲み続け、いつの間にか病気が進行している場合もあります。誰にでも起こりうる病気で、生活習慣病の一つであると捉えられています。

田中

そもそも身近な飲み物であるアルコールは、脳に麻酔をかけるような作用があり、依存性をもっています。不安やうつ症状を和らげるような作用もありますが、あくまで一時的な効果であり、長い目で見るとうつ状態を悪化させ、それをどうにかしようと再飲酒し、悪循環に陥ることもあります。

遺伝や環境も影響しますが、1日30~40g以上(ビール500ml2本程度以上)を週の半分以上のペースで10~15年続けると、発症率が高まります。肝障害などの身体疾患だけでなく、精神面にも影響を与えるため自殺との関連も強く、平均死亡年齢は約52.3歳と命に関わる病気なのです。

― 病気の傾向は。

北田

近年、女性の依存症が多くなっています。背景には女性の社会進出があり、仕事で飲酒の機会やストレスが増えてきたことが考えられます。女性は妻、母としての役割が多く、我慢しがちで孤立しやすい。生きづらさを抱えても誰にも相談できず、キッチンドリンカー(女性が家事をしながら飲酒をすること)になる女性も増えています。

長尾

真面目で責任感の強い人が陥りやすい傾向にあります。何事にも「良い加減」ができずにストレスをためがちだからです。仕事に埋没した人が、定年後に趣味もなくお酒に走ってしまうケースも最近では目立ちます。眠れないからお酒を飲むことも日本人に多くみられる傾向です。寝酒の習慣は、眠りの入り口にはなるかもしれませんが、睡眠の質とリズムを悪くして、結果的に不眠症を悪化させます。アルコールの弊害をよく理解して、適切な飲酒を心掛けてほしい。

― 病気の主な原因は何ですか。

片下

ストレスや苦しさをアルコールで対処することが原因となることもあります。例えば幼少期に受けた虐待のトラウマ(心的外傷)や親がアルコール依存症だったことも起因することも知られています。依存症は、治療をすれば回復可能な病気です。早ければ早いほど、効果が出やすい。本人も家族も、他の人に言いづらく孤立しがちです。匿名でもいいので、まずは電話で病院に相談してほしいです。

interview 02

治療法

― どんな治療法がありますか。

片下

一人一人治療法は違います。回復への糸口はひとそれぞれです。まずは、病院や自助グループに相談に行くことから始めてほしい。言い出しにくいかもしれませんが、早期治療が重要です。呉みどりヶ丘病院では、まずは家族と本人に気持ちや問題点などを聞きます。そこから通院か入院かを考えます。

― 通院では、どのようなことをしますか。

北田

通院のカウンセリングでは、依存症の理解を深め、酒によって失われる費用、時間、人間関係などをあらためて考える時間を設けます。「飲酒のカレンダー」を作り、量や頻度を改善していく過程を記録していきます。回復した例を知る事も大切で、自助グループや勉強会などに参加し、仲間とのつながりをつくってもらいます。お互いに励まし合うことは良い刺激になります。

「なぜアルコールをやめなければならないのか」。診察では、患者自身があらためて考える時間を設けます。

― どのような場合、入院になりますか。

長尾

仕事や日常生活が困難になるなど、社会生活や身体に不具合が生じてしまう場合は入院を勧めます。また、自分の行動や考え方の偏りに気付き、変わるために、生活を一旦仕切りなおす時にも入院は有効です。通常3カ月の入院が基本です。まずは酒を安全に止めることから始めます。手足の震えや幻覚などの離脱症状を防止し、「解毒」を1~2週間かけて行います。その後、アルコールリハビリテーションプログラムとよばれる様々な精神療法や、自分の気持ちを見つめ率直に話し合うミーティング、生きる楽しさを見出すための作業療法、栄養指導など様々な職種のスタッフが関わって治療を行います。

― 治療において大切なことは。

田中

回復のための最も大きな柱となるのは「居場所と仲間」だと感じています。依存行動(ここでは飲酒)の分析や対処スキルを身に着けることも大事ですが、楽しみや生きがいを見つけることも大切なことです。孤立を防ぐことを意識し、患者のニーズに合ったアプローチをする必要があります。
また、本人を取り巻く環境が変わることで、予防・早期治療にもつながります。多くの方にこの病気を正しく知って頂き、個人個人そして、社会の受け止め方も変わっていけばと思います。

心理教育では、アルコール依存症の問題を学び、自分の気持ちと向き合います。

interview 03

家族の関わり方

― 家族が悩み、どう接していいか分からない場合は。

田中

家族の関わり方はとても大切です。まず本人がいつ、どこで、なぜ、何を飲み、どんなメリットやデメリットが生じているのか状況を明確する…。ちょっと専門的でしたね…。悩んだら当院のような専門機関などに相談してください。今後の対応や家族ができることなどアドバイスが受けられますよ。

長尾

声掛けにもポイントがありますよね。これはアイメッセージ(I message)というのですが、「私は、あなたが心配」「私は、あなたが飲むと悲しい」と自分を主語にして気持ちを伝えると効果的です。押しつけにならない程度に伝えると、本人も受け入れやすくなります。

― 家族が注意するべき言い方や接し方はありますか。

北田

「なぜ飲むの」「私たちのことはどうでもいいの」といった叱責は逆効果です。迷惑をかけた人や店に、本人に代わって後始末をすることもよくない結果をもたらすことがあります。

田中

家族はとても辛い思いをされていると思いますので、依存症者の問題だけで頭をいっぱいにせず、自分の時間を大切にすることも心がけてください。時間はかかるかもしれませんが、家族の変化は、本人の変化につながります。

北田

酒を飲んでいる時に何かを言っても効果はありません。酒を飲んでいない時に自分の気持ちを伝えましょう。依存症は家族ぐるみの病気です。病気についての理解を深め、対応などを学ぶ場として、当院では、依存症者を抱える家族の方を対象とした「家族教室」を開催しています。

― 本人はアルコール依存症と認めず、家族が困っているケースも多いと聞きます。

片下

相談には家族だけでも来てみてください。一緒に対処法を考えましょう。家族が依存症であることは、なかなか他人には言えません。誰にも相談できない日が続き、病院に相談に来るまでの期間は、平均して5年以上かかると言われています。家族が疲れ果ててどうしようもなく相談に来られる人が多いのですが、早めに来てほしい。本人の変化に疑問を感じたときは、すぐに電話してほしい。

長尾

「酒を飲むな」と言われると、8割近くの人が飲酒欲求を生ずるというデータもあります。家族は相手を責めないで、心配している気持ちを伝えましょう。ただし飲酒によりDVなどの命に関わることが起きた場合には、すぐにその場から離れること。警察などの公的機関、病院に相談してください。

そうは言っても、いきなり専門病院に相談するのは緊張するかもしれませんよね。近くのかかりつけの病院に、アルコール健康障害の対策に協力する「アルコールサポート医」がいれば、そこに相談するのもよいでしょう。早期発見・治療が回復への鍵となります。一人で悩まず、抱え込まず,まず、早く周囲と相談して、誰かと繋がっていただきたいと思います。

第1日曜日午後1時から、「家族のつどい」を開き、家族の思いや体験を話したり、断酒会と交流したりしています。
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