アルコール依存症は、自覚症状がなく、「否認の病」とも言われています。本人は病気を認めず、病院に行くことを拒みがちです。

広島県依存症治療拠点機関に指定されている瀬野川病院(広島市安芸区)によると「依存症の家族をどうやって病院に連れて行けばいいか」という問い合わせが多いといいます。

病院への導き方や、治療内容、家族の関わり方について、瀬野川病院の精神科医の加賀谷有行氏、精神科認定看護師の川田英志氏、精神保健福祉士の田中佳子氏に聞きました。

精神科医 加賀谷有行氏
精神科医 加賀谷有行氏
精神科認定看護師 川田英志氏
精神科認定看護師 川田英志氏
精神保健福祉士 田中佳子氏
精神保健福祉士 田中佳子氏

interview 01

病院への導き方

― 家族を病院に連れて行く方法は。

川田

受診を嫌がるのを説得するには、アルコールが入っておらず、落ち着いている時を見計らってください。強要せず、「あなたの体が心配」と諭すようにし、本人が受診を決意するタイミングに備えてください。目的も告げずに、だましながら連れてくるのは、家族や治療者への信頼が失われて治療へつながりにくくなります。職場の上司や産業医から本人に治療を促してもらうのも効果的です。周りの力を借りながら「協力する」という誠実さを見せると、受診の抵抗が和らぐことがあります。

― どうしても病院に行きたがらない場合は。

田中

まずは家族だけで来院していただき、相談員や医師が相談を受け付けることができます。個々の状況に応じて、本人が受診につながりやすい方法を一緒に考えていきます。また、家族が抱える悩みを聞き、より適切な対応について考える「個人プログラム」も行っています。
家族は本人にとって一番身近な存在であり、身近であるがゆえに、つい飲酒をとがめたり、うそを指摘してしまったりするケースが多いようです。しかし、これまでの例から考えても、「またお酒を飲んで」と指摘するよりも、「体のことが心配だから、一緒に病院に行ってみない?」などと家族自身の気持ちを伝えたり、本人に支援を申し出たりする方が、受診にはつながりやすいと思います。

加賀谷

いきなり精神科に行くのは抵抗があるかもしれません。アルコール健康障害の対策に協力する「サポート医」が、地域の病院や診療所に配置されています。広島県のホームページなどで検索してサポート医を受診するのもいいでしょう。瀬野川病院も、地域のサポート医と連携して、早期発見、治療を心掛けています。
社会的な偏見や世間体を気にしてなかなか相談できずにいる人は多いです。しかし、問題を引き延ばすほど事態は悪化します。依存症との確信がなくても、飲酒問題で困っている時は、医療機関に相談したほうがいいです。地域の保健所や自助グループでもいいです。

患者の気持ちに寄り添いながら診察をする加賀谷医師。

interview 02

治療のプロセス

― 病院では、どのような治療をするのですか。

川田

時間をかけて、本人と話しながら丁寧に治療法を組み立てていきます。まずは医師が外来治療か入院治療かを本人の意見を尊重しながら判断します。入院の場合、基本は2、3カ月を費やします。
最初の1カ月は、検査や点滴、投薬などを行い、体からアルコールを抜いていきます。手の震え、悪寒、焦燥感、睡眠障害などの離脱症状も起こりやすく、人によっては、うつ状態に陥り、幻聴や幻視、記憶障害を起こし、命に関わることもあります。また、飲酒欲求が強くなるなど、治療を断念しやすい時期でもあり、看護師も全力でサポートします。
残りの1、2カ月は、依存症の勉強会や集団活動、外出泊訓練などを続けていきますが、途中で通院に切り替えることもできます。

― 勉強会などでは、何をしますか。

田中

瀬野川病院では週に2回、「再発防止プログラム」として、認知行動療法の一種である「SMARPP(スマープ)」を使用しています。患者が自らの思考や行動のパターンを知り、対処の仕方をスタッフと一緒に考えます。アルコールをやめる動機付けや、使用したくなるのはどんな時か、誘惑をどのように避けるかなど、テーマに沿ってグループで話し合い、意見を発表し合います。
週1回の勉強会や集団活動は、看護師たちから専門的な講義を受けたり、スポーツや料理などを通じて趣味を見つけたり、集団生活ができるよう支援をしています。断酒会などの自助グループと関わる時間もあります。

スマープでは、患者が思考や行動のパターンを知り、対処方法をスタッフと一緒に考える。この日は、酒と自分との関係について話し合った。

― 県依存症治療拠点機関として、独自の治療法はありますか。

加賀谷

アルコール、薬物、ギャンブル依存症を専門にした研究機関とプロジェクトチームがあり、精神保健福祉士や看護師など各専門スタッフとの連携を大切にしながら治療環境を整えています。入院患者や外来患者が一緒になり、再発プログラムや勉強会などを受けられることが特徴です。自分とは違う依存症に苦しんでいる人や、依存症の罹患歴・重症度が違う人と一緒に考えることにより、さまざまな情報を交換できます。いろんな体験を共有でき、議論に深みを増すことが狙いです。

川田

再発・再飲酒しても絶対に見放さないという気持ちで向き合っています。病院が、安心でき、回復する仲間とつながれる場所であると思っていただけるように支援しています。依存症になる原因や経過は人によって違い、物語のようにイメージして共感することを心掛けています。

interview 03

家族のコミュニケーション

― 家族は、どのような接し方をすればいいのですか。

川田

心に余裕を持ち、感情に振り回されないよう、冷静になって話をすることが大切です。家族は一番の支援者です。感情的になると、ますます本人の反発が強まり、危険が及んで身体的、精神的にも疲れてしまいます。
そうは言っても、毎日、本人と過ごすのはストレスだと思うので、感情的になることもあるでしょう。私たちは家族の方のストレスを吐き出してもらい、少しでも心の負担が軽減できるようにと心掛けています。効果的なコミュニケーションの技法や講習もやっていますので、当院のスタッフにお尋ねください。今、悩んでいる事や、困り事を一緒に考えていきたいです。

田中

本人の良い所やできていることに目を向け、褒めることも大切です。しかし、これまでの家族の苦労を思えば、なかなか難しいことです。私たちは、家族同士が安心して悩みを打ち明け、分かち合えるような「居場所」作りを目指して定期的に家族会や家族教室を行っています。いつでも参加を受け付けていますので、ぜひご連絡ください。お待ちしております。

加賀谷

家族自身の生活を豊かにしてください。自分を褒めたり、ご褒美をあげたり、楽になっていいのです。気持ちにゆとりが生まれれば、うまく対応できるようになります。
そして、無理をするくらいなら、早く相談に来てください。1人で考えても状況は変わりません。解決に向けての方向性を探すために、私たちが協力します。スタッフは、やる気と使命感を持って対応します。24時間、電話を受け付けているので、まずは相談してください。その一歩が、今後を変える大きなきっかけになるかもしれません。

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